2019年7月18日最高裁判決 ”生活排水巡り住民側の逆転勝訴”
最高裁第1小法廷は、2019年7月18日、「H30(受)533」使用料請求事件について判決を示しました。
<裁判に至る経緯>
徳島市の国府地区を中心とした「以西土地改良区」は、生活排水を流している家庭から使用料を徴収してきましたが、一部の住民から「浄化した水を流すための使用料」に限って支払いを拒絶されました。「以西土地改良区」は、他の農家から不公平である旨の不満が出た為、2011~12年に原告となり「使用料請求事件」として提訴しました。
原告は、「河川法に基づき、徳島県の許可を得て用水路の流水を排他的に管理する権限を持っている」と主張し勝訴、原告側の請求権を一部認める二審高松高裁判決(H28(ネ)169:H29.11.1)を得たのです。
ところがその後、最高裁に上告(H30(受)533 他)され、最高裁判決は、二審判決を破棄し被告(住民側)の勝訴としました。
その時の判決文の内容を次にまとめます。
<最高裁判決の要旨>
最高裁は、まず、原審の要旨を次のとおり確認します。
「河川法23条の許可を受けて河川の流水を占用する権利は、排他的に流水を占用する物権的な財産上の権利である。本件水路には被上告人が同条の許可に基づいて取水した水が流れているから、被上告人は、本件水路の流水について排他的管理権を有し、これに基づいて第三者に対し本件水路への排水を禁止することができる。したがって、上告人ら及び選定者Aの本件排水により被上告人の上記排他的管理権が侵害されたというべきである。」これが原審の要旨である。
しかし、最高裁は、これを是認することができない。その理由は次のとおり。
「公水使用権は、公共用物である公水の上に存する権利であることに鑑み、その使用目的を満たすために必要な限度の流水を使用し得る権利にすぎないと解され、当該使用目的を満たすために必要な限度を超えて他人による流水の使用を排斥する権限を含むものでないというべきである。そうすると、被上告人は、本件水路に被上告人が河川法23条の許可に基づいてかんがいの目的で取水した水が流れていることから、その水について当該目的を満たすために必要な限度で使用する権利を有するとはいえるものの、直ちに第三者に対し本件水路への排水を禁止することができるとはいえない。したがって、本件水路に被上告人が河川法23条の許可に基づいて取水した水が流れていることから、被上告人が第三者に対し本件水路への排水を禁止することができるとし、上告人ら及び選定者Aの本件排水により本件水路の流水についての被上告人の排他的管理権が侵害されたとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。以上により、原審判決中の上告人らの敗訴部分は破棄を免れず、事実関係等の下においては、被上告人の請求はいずれも理由がないというべきであり、これらを棄却した。」
これが、判決主文要旨です。私も、常識的に「排他的管理権」を全面主張するのは無理があり、もっと多面的な事由があるとも思います。只、尚書きとして、これには裁判官の意見が補足されているので注目いただきたい。
<裁判官の補足意見要旨>
「本件水路は、古くから土地改良区である被上告人により農業用の用排水路として使用されており、組合員から組合費を徴収する被上告人が、水利の必要等に応じて事実上その全般的な維持管理を行ってきた。他方、被上告人の組合員ではない上告人ら及び選定者Aは、特段の費用を負担することなく、し尿等を浄化槽で処理して本件水路に排水している。本件水路は、公的財産であるいわゆる法定外公共物として法令等に基づいて管理されるべきものであるところ、国から本件水路の譲与を受け、その管理権限を有する徳島市と、本件水路を使用し、その維持管理を行ってきた被上告人との法的関係が明確でないことが、本件のような紛争を生ずる原因の一つとなっていると思われる。そのため、本件水路の維持管理やその費用負担の在り方については、徳島市と被上告人との法的な関係を明確にした上、法令に基づいて整理・検討する必要があると考えられる。」
(以上 公表分)